編釈者略歴　　

昭和三年生まれ、 原籍山口県、東京都調布市在住、日本大学理工学部建築学科卒業、卒業後建設会社に勤務。
昭和五十三年　一級建築士事務所　株式会社　西東エンジニアリングを設立、その代表取締役に就任す。
平成八年五月　調布漢詩研究会に入会、始めて漢詩漢文に触れて現在に至る。

詩号は深渓。自作の漢詩野詩、呉下の阿蒙を恥じらいながら公開しています。

平成八年八月が亡母の十七回忌にあたり、遺品の整理のため古い行李を開くと、古文書というか毛筆書きの書類が澤山あり、一部楷書の物もあるが殆ど草行書であり、建築畑に生涯をかけてきた私には全く何が書いてあるのか判らず漢文や書の素養のないことを恥じるばかりでした。

毛筆書きの書類は殆ど祖父の書で祖父の長兄、次々兄（南部）も散見されるも、曾祖父南部五竹の直筆の書「杜詩偶評抄」一冊　友の東沢瀉の直筆の書「文政絶句抄」一冊及び、沢瀉の長子敬治が祖父にあてた書簡詩文、また東敬治の「蔵春閣詩存」上下などがあり、軸物に表装された書五点、この度新たに保存のため小品を軸物に七点、額に一点表装して保管することにしました。

白雲洞遺稿は、明治二十六年九月に祖父が、長兄、次兄、次々兄と相諮り、活字印刷編集発行せるもの、初版装丁は和半紙二つ折りで、和綴じ二冊あり、白雲洞遺稿拾遺については、後に大伯父が編集発行すべく、準備していて果たせなかったものを、母の従兄妹にあたるによって、昭和三十五年正月ガリ版印刷された物が一部あるも、謄写版刷りで酸性紙のため、変色して判読が難しい状態と原文は漢文体で一般には読めないものであり、祖父の遺稿は羅漢山人遺稿として、「羅漢雑叢」「農蚕業雑録」「岑邑探勝」「錦川春望」の小冊子等々あり、軸物として表装された書数点あり、何れも祖父行蔵及び兄惺庵保等の書、草行書のため読み取るのに一苦労を重ねた次第です。

古希を迎えるにあたり、曾祖父や祖父の遺稿を読む機会を得たことは、偶然とは思えないものがあり、七十の手習いで、パソコンを購入自室に持ち込み悪戦苦闘して、白雲洞遺稿の上巻、下巻、拾遺、及び祖父の遺稿の一部を入力しました。一番苦労したのは当用漢字を一々原本どうりに直すこと、旧字は外字として、部首や字画を組み合わせ作字入力することであり、書下し文に直すのにも漢文の素養のなさに苦しむ、一字々々新辞源を開き読みと語釈を書き出し前後のつながりから文の大意を読み取ると言う素人の悲しさ、労多く遅々として捗らず、折りしも調布市報に、調布漢詩研究会が毎第一土曜日に、調布市文化会館の十一階で同好の人の学習会が、千葉大学名誉教授志村和久先生を講師に招き開催されるとのこと、恐々聴講し、会員二十名前後、皆永年この方面の研鑽を積まれた方ばかりで、肩身のせまい思いでの聴講でした。調布漢詩研究会事務長の翠雲富樫富松氏には、当初よりご助言と激励をいただいた。又資料蒐集に当たっては我が小学校時代の恩師で岩国市錦見在住の角吉郎先生及び岩国人物誌、郷土岩国のあゆみの二冊をご寄贈下さった岩国市中央図書館と先の氏の方々に衷心より好意を感謝いたします。

書下し文にはルビを振り末尾に語釈、通釈をつけました。我が家の子々孫々が本書により聊かでも解読して、先人の遺風を偲ぶことができればと、漢詩漢文の素養もなく浅学菲才をも省みず、本書は他出他見を目的とせず、著者先人の関係者に供覧できればと編釈したものであります。短期間での速成のため推敲不十分での素稿で向後順次補正をしたいと思い。我が家の子々孫々遺墨の原本や遺稿の保存に努め粗略な取り扱いのないよう希望するものです。

平成拾年四月廿八日             古希を迎えるにあたり謹録す         齊藤　信行

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